これは私が実家に1年ぶりに帰ったときの話です。
私は以前から 「何となく家にいたくない」 という感覚に襲われていて
大学合格と共に迷うことなく一人暮らしを選んでいました。
実家に住む家族は全員が仲が悪くいつもばらばらに食事を済ますか
ののしりあいの喧嘩をするか、という状態。
しかし今年の夏は10日間予定を空けて帰省。
しかしそこでは恐怖体験が待っていました。
まず最初に起こったのは、突然の不眠です。
最初の5日間 昼夜問わず布団に入って眼を閉じても眠れない。
隣の部屋では、母がぐっすり眠っていて 物音ひとつしないタタミの部屋。
運動不足なんだろうと思い翌日は散歩に出かけてみたりしました。
しかし、7日目になっても眠れません。
ウトウトするのですが 何かが「眠っちゃいけません!」 と私の睡眠をさえぎるのです。
8日目
私はあまりにも眠れないので夜中に父の書斎に入りました。
パソコンを使おうと思ったのです。
父は社会学専攻の学者で書斎には数万冊もあろうかという
古文書の類がごろごろしていました。
中にはどこで拾ったのかよくわからないような
ツボなんかも置いてあって、ちょっと気味が悪いのです。
夜中の2時ごろだったでしょうか。
私は何となく、自分の右側から人の気配を感じました。
嫌な感じがするだけで、大して気にもとめませんでしたが
(その頃の私はたいした霊感もなくただ何かのいる部屋に入ると
線香の匂いのようなものを感じる程度でした。)
突然、物音が聞こえ出しました。
「ふー、ふっふ。ふーふっふっふ。」
笛を吹くのに似ています。
少しかすれていて、悲しげな音。
え?と思ってその音のする方を凝視しました。
そこにはたくさんの筆で書かれた書物の背表紙が見えています。
その、どこからか、音が聞こえるのです。
私は怖くなって、書斎を出て、布団に戻りました。
ウトウトし出して、このまま眠れるといいなあと ぼんやり考えていたときです。
突然キーンというものすごい耳鳴りがやってきて金縛りに会いました。
天井からは
「だだだだだだだだ!!」
と下駄で板を踏み鳴らすような音が。
私が恐怖で目を見開いているとふすまを隔てた隣の部屋から足音が聞こえてきました。
見ると、私に向かって母親が歩いてきます。
私の上を通り過ぎて、後ろに座ります。
姿かたちは母親でも、ニセモノだということが直感でわかりました。
「○○、ほらこの薬を飲みなさい…」
私の顔をぺたぺたとさわり
何かの粉薬を飲ませようとするのです。
私は夢中で 「邪神め!ニセモノだってわかってるんだからね!!」 と念じました。
すると、目の前が急に開けて
私は青白い水墨画の世界のような場所に吸い込まれました。
そこには数人の子供がいました。
みんなぼろぼろの服を着て泣いています。
父の部屋で聞いた笛のような音は この子たちの鳴き声だ。
とまた直感。
そのうち、水墨画の中の川のような場所から黒い着物のような衣装の男が現れました。
手にはツボのようなものを持っています。
「こいつだ!」
「こいつのおかげで、あたしは実家に寄り付きたくなかったんだ!」
そう思いました。
おでこには、漢字のような文字が刺青で入っています。
「この子供たちと同じようにお前も焼いて食ってしまおうぞ!」
男はツボをふりかざして子供たちの周りに火を放ちました。
子供たちが悲鳴をあげ、バタバタと倒れていきます。
焼け爛れて真っ赤になっていく様子。
私は、逃げてはいけない 闘わなければ!と思い
その男に知っている限りの言霊をぶつけました。
「たてまくも、いざなぎの・・・・」
しかし、男は 「そんなもの利くとでも思っているのか」 といやらしく笑います。
私は殺される!とまで思いました。
夢中で頭の中に言葉を思い浮かべます。
「守護霊様、お助けを!」
全身全霊を込めて、そう念じたとたん 体の力が抜けて目の前がピカッと光りました。
すると、フェードアウトするように目の前が元通りになって
天井に赤い天狗のおめんをかぶった子供のようなものがふわふわ浮いていました。
その後二日間はよく眠ることができました。
父にそれとなく書斎の書物について聞いてみると
昔土偶の研究をしたことがあり古代のまじないについての書物を集めた ということです。
研究者は、見てはいけない書物を平気で開封し
封印された言霊を開いてしまうのでしょう。
あれからまだ、実家には戻っていません