大学生の時 僕はスキューバダイビング部に所属していたんですけど
これは沖縄本島から船で1時間半ぐらい行った小さな島での本当のお話です。
僕達は総勢25人ぐらいでそこに夏合宿に来ていたのですが
ある夜ナイトダイビング(夜潜ること)をやろうと言う事になって
3人の先輩(4年生)と僕達3人(3年生)だけで行くことになりました。
誰もいない、砂浜からエントリーし40分ぐらいで同じ浜に戻る計画でした。
知ってますか?
夜の海の中って果てしなく続く暗闇って感じで怖い事。
自分が呼吸する音以外は音もなく 方向さえ分からない動くものさえいない..
まあ、そんな事を考えながらも寝ている魚を手ずかみしたり
たこを穴から引きずり出したりと
それなりに楽しんでから、浜に戻る事にしました。
浜に戻る途中、誰と無く前の人の足を引っ張ってふざけながら浜に戻りました。
戻ってから、一番最後にいた Y先輩がいないことに皆気がつきました。
慌てて、海の方向へ探しに行くと
海の中で胸ぐらいまで海水につかって立っている先輩を見つけました。
「おーい何してるんですか?早く上がってきてください!」
「Y、俺達をビビラそうとふざけてんじゃねー!」
「たすけてくれ!足が!」
「殺される!動けない!」
「死にたくない!」
先輩は、声にならない叫び声を必死に上げていました。
これは何かあったに違いないと
皆でそこまで行くと、先輩はぶるぶる震え
「足が..足が死にたくない..」
と、うわ言のように繰り返し まるで僕達に気付かず暗い沖の方を見つめていました。
こいつおかしいぞ!
ある先輩の声をきっかけに 一刻もここから離れなければ!と誰もが思い
Y先輩を僕らが抱えるようにして浜へ戻りました。
浜に上がった僕達は、Y先輩の足を見て声を無くしました..
そこには、びっしりと人間の長い髪の毛がからまり
その先には恐らく頭の皮の一部だろうと思われる肉片がくっついていました。
あとは皆パニック状態で、必死にからみついた髪の毛をはがし
ダイビング機材もそのままに宿まで一目散に逃げました。
宿につくと血相を変えた僕らを見たおばさんが 「何があったの?」と尋ねてきました。
僕達は、今までのことを話すと
おばさんの顔がみるみるうちに変わっていき飛び出していきました。
どうやら、水死体が上がったと思ったらしく
近所の人達で朝まで捜索が行われたそうです。
でも、何も見つかりませんでした...
その夜は、皆眠れず朝を迎えました。
ただ当事者のY先輩だけは、死んだように眠っていました。
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朝になり、Y先輩も正気に戻り 昨晩のことを僕達は聞きました。
その話によると、皆で足の引っ張り合いをして
ふざけていた時、誰かがY先輩の足をしつこく引っ張ったそうです。
はじめは、「やめろよ!ふざけんな!」 とか言っていたそうですが
あまりにもしつこいので、頭にきて そいつの手をつかみ引き上げたそうです。
すると...
ざばーと上がった人間は、髪の長い顔が真っ白で
目の色が真っ黒の女だったそうです..
女は、にやりと笑って先輩にしがみつきこう言ったそうです。
「おまえもくるか..おまえもこい..」
あとは必死で浜に向かい泳いだそうです。
その後のことは良く覚えていないそうです。
今もこの季節になると思い出します。
もちろんそれから僕らはナイトダイビングをやっていません...
海は、生命の誕生したところです。
よく母なる海なんて言いますよね
でも命を終えたものもやっぱりそこに帰っていく場所..
それが海でもあるような気がします..
あの時Y先輩が連れて行かれようとした場所は
きっと今もこの広い海の深い場所に存在する...
そんな気がしてなりません。