GHOST TAIL

JuJu:怖い話と百物語

百物語

笑い人形
2004年/投稿者:(jun)

皆さんは「笑い人形」をご存知でしょうか?

呼び方が正式か否かは分からないのですが、

おなかの部分を指で押すと機械的な声で

「ワハハハハ・ワハハハハ・・・」と笑い声を上げる人形のことです。

そんなローテクなオモチャ、今では売っているのかどうか・・・?



でも、私が小学生だった30年ほど前には、結構普通に売られていたような気がします。

私も、吸血鬼ドラキュラをかたどった笑い人形を買ってもらい

その奇妙な声を聞いて半分は楽しみ、半分は恐怖を感じていたのを思い出します。

しかし、時と共に興味は他へ移り、その人形もどこへ行ってしまったのやら・・・?

そんな人形の存在すら忘れていた、中学一年生の時のことです。



私は北海道在住なのですが、やはり夏はそれなりに暑く

夜は自宅前へ涼みに出ることもしばしばでした。

そして、ある日の夜、いつものように外で涼んでいると

遠くから懐かしい声が聞こえてきたのです。





そう、あの「笑い人形」の声でした。





「おお、あの手の人形、まだ売ってるんだな〜」。

どこかの子供が外で笑い人形のおなかを押している。

その時はそんなふうに考え、昔買ってもらったドラキュラのことを思い出していました。





しかし次の瞬間、物思いにふけっている場合ではないことに気がつきます。

ほんの数秒前まで

かなり遠くに聞こえていたその笑い声が、私のすぐそばに迫っていたのです。

しかも、その声は更に移動しており、どんどんこちらに近づいてきます。

そして、ついには足元を通過し、今度は遠ざかって行きました・・・。

その間、声は聞こえるものの、姿は一切見えないのです。

私は、一瞬何が起きたのか理解できず、しばらく呆然と立ち尽くしていました。

しかし、気を取り直して冷静に考えて見ると、どうやらその声は、

自宅前にある流量の少ない下水道に沿って移動していた「らしい」ことに気がつきます。

その下水道には蓋がしてあって中を覗くことはできないものの、

声が聞こえた位置からして恐らく間違いないでしょう。

その時は

「イタズラっ子に笑い人形を縛りつけられたネズミが下水道の中を移動していた」と、

(かなり)無理やり結論付け、自分を納得させていました。

何でもいいから、その顛末を説明する理由が欲しかったのです。





しかし数日後、その無理な結論付けはあっけなく覆されます。

その日も外で涼んでいると、また例の「笑い声」が聞こえてきたのです。


「うぁ〜、またか・・・。こりゃ〜ネズミ云々じゃないな・・・。」


しかし、前回の時よりもかなり冷静でした。

と言うより、声の正体を突き止めたいという好奇心が、

恐怖心に打ち勝った状態といえるかも知れません。

少し待っていると、前の時と同様、

声はあっという間にそばまで近づき、足元に達します。

前と違うのはここからです。

私は、その声と歩調(?)を合わせて歩き始めました。

姿の見えない笑い声と並んで歩いている。

そんな奇妙な状況に若干の狼狽を覚えながら、それでも正体を知りたい・・・。

その一心で。





その声は、閉ざされた空間に反響する様子までが、リアルに伝わってきます。

正体が下水道の中にあることは、ほぼ間違いないと確信しました。

更に先へ進むと、その下水道は少し幅が広く流量も多い別の下水道へ

直角にぶつかる形で合流します。

合流地点から左へ行くと上流、右へ行くと下流となるのですが

下流側へ行くと、下水道は一旦道路の下を通ることになる格好です。





果たしてどちらへ行くのか?





ドキドキしながら着いて行くと、声は水の流れに逆らわず

右側の下流方向へ進んで行きました。

そして道路の下へ・・・。





私は先回りして、

再び下水道が道路から出てくる地点で待ち構えることにしました。

緊張感は最高潮に達します。

ここから先は蓋がされていないのです!

もしかしたら、「それ」を見ることができるかも知れません。

しかし、声が道路から出てくることは無く・・・。

残念ながら、正体を掴むことはできませんでした。

その後は毎晩のように外へ出て、

あの声がもう一度聞こえてくるのを待つようになっていました。

どうしようもなく不思議で、何とかして正体を突き止めたい・・・

そんな思いからのことです。

しかし、声が三度私の前に現れることはなく、現在に至っています。

あれから既に25年の月日が流れました。

今では、当時住んでいた実家を離れていますが、その実家の場所も変わり

声が聞こえた下水道も取り壊されています。

恐らく、この先もあのような体験をすることは無いでしょう。

恐怖と興味の入り混じった気持ちが、今でも懐かしく思い出されます。

でも、もし万一、またあの声を聞くようなことがあれば、

また投稿させて頂きたいと思います。