方ないよね
投稿者/A列車の男


私が高校生時代に体験した話です…確か梅雨入り前の、雨が降りそうで降らないような微妙な天気の日でした。私はその時は2年生で、学校の教室での当時の私の座席は廊下側の壁際の、後ろから2、3番目の席でした。(曖昧ですみません)授業が終わって気の抜けた教室の中、私は廊下側の壁に背を向け、椅子に横向きに座り、ただクラスのみんながはしゃぐ様子を見ていました。「昨日の○○見た?」だとか「○○のゲームのボスが倒せない!」だとかそういった「平穏なざわめき」に耳を傾けるのが、ひそかに好きだったのです。この日までは。その休み時間に入ってものの数分といったところでしょうか。ふいに……上手く表現できないのですが、ふいに空気が変わったといいますか、自分だけが空気的にその教室から離脱してしまったというか、すぐ目の前にいる筈のみんなを、物凄く遠くから見ているような……画面上に映し出された教室風景を傍から見ているだけのような……とにかく目前の情景が突如として物凄く『薄っぺら』になってしまったのです。「(あれ?なんだろうこの感じ……)」私はその突然訪れた妙な空気感に酔ってしまい、思わず顔を伏せました。「(寝不足?でも昨日はちゃんと……。目が疲れてるのかなぁ)」何故か冷静な頭の中、そんなふうに思考を重ねていた僅か数秒。その間に、またもやなにか空気が変わったような気がして、私はとっさに「えっ?」っと思って、すぐに顔を上げました。そして直後、私は言い知れぬ不穏に思わず息を呑みました。目が合ったのです……。クラス中のみんなと……。静寂の中、みんな…みんな…みんな……1人として例外なく、みんな…みんな…みんな……さっきまでただ無邪気に、他愛もなく互いに話し合っていた筈なのに、み〜〜んなこちらを見ているんです。自分の体から、ゾクッと背筋が凍る音が聴こえました。私は目も背けられず、彼らの見開かれた目をグルグルと見回しました。そんな時、誰かがとても小さな声で「あ」っと呟きました。次の瞬間、背後から僅かな ミシッ という音……そして間髪入れずガッシャーーーーン!背後斜め上からイヤな破壊音。私に向かって降り注ぐ半透明なカケラたち。私の周りを、そのカケラたちがスローモーションでかすめて落ちていきました。そして同時にそれらを通して、みんなが慌てふためき始める瞬間が見えました。軽症(意外にもほぼ無傷)。原因は廊下でふざけていた男子。何のことはありません、たまにあることです。直前の光景を除けば。もちろんその時のみんなの異様な雰囲気が気になり、後から親しい人の何人かに、その時のことを聞きました。どうしてみんな私を見たのだろう…。しかもガラスが割れる直前…。まるで予知していたかのように……。「知らない」「え?」当然私はその返答に納得がいきません。もっと詳しく尋ねました。「いや、マジでわからん。気づいたら見てた……」薄気味悪かったです。みんな口をそろえて、 「知らない」 「気づいたら…」ばかり言うのです。挙句の果てには、 「でも仕方ないよね」という会話が始まったのです。 ……仕方ない?「どういうこと?」私がそう尋ねると、みんな顔を見合わせ、しばらく考えてから、 「何が『どういうこと』なんだ?」というような顔で、口々に言いました。 「え?だって仕方ないじゃん」 「仕方ないよ。ねぇー」「そうだよねー!仕方なかったんだよ!」 それは少しの同情もないような口調でした。 「天罰みたいなものってこと……?」 私は半分涙目で聞きました。彼らはまた困ったような口調で答えました。 「いや……○○(私)は悪くないよ。ただなんとなく、○○があそこで、 ああいうふうに怪我するのは仕方ないと思うんだ」 「だよね〜。○○があそこで怪我するのって、普通仕方ないよね」 「元気出しなよ。そうだよ、あの時は仕方なかったんだよ!」 この時の、彼らの顔……。無償に怖かったのを覚えています……。 大した話でもないのに長くなりましてすみません。 ただ…… この日を境に、私が生きていくうえでの私自身の在り方が変わってしまったような気がします。 なにしろ以来、当時の面子に関係なく、どんな人にでさえも、 私に降り注ぐ不運はすべて、後味の悪い曖昧さを残しながら 「仕方ない」で片付けられてしまうのです。 まだ今も…。……でも仕方ないですよね。

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