の中の違和感
投稿者/桐崎永久


またしても、あまり怖くない話で申し訳ないのですが。 気になったことは、何処かに書き残したいものです。 皆さんは、小さい頃、よく見る夢がありましたか? 私がよく見たのは、自分の家や、通っていた小学校や よく遊びに行った従妹の家、近所の公園などでした。 それも、現実世界のそのままではなくて、何処か奇妙に拗くれていて そのくせ妙に現実感があり、当時は自分が夢を見ているのか はたまた現実に起きて体験をしているのか判別の付かないこともしばしばありました。 現実の世界と違うのは、大抵階段がやけに長かったり 廊下が長大だったり、ある筈のない扉があったり。 それでも、子供の心に新鮮な恐怖を与えるには充分な、 しかし小さな違和感でした。 その日に見たのは、自分の住んでいる都営住宅。 見慣れた景色なのに、何かが神経に訴えました。 ここは、何か違うと。 向かいの団地も、八重桜の木々も、季節すら現実と同じ時を流れているのに 何かがおかしいと感じられたのです。 結局は、何がおかしいのか、その時は分かりませんでした。 分からないまま同じ風景を何度も夢に見ました。 自分の住む住宅、その周りの諸々のもの。 夢を見ている脳では夢とすら判断できない それはほんの小さな違和感だったのです。 それが、最近になって漸く気付くことが出来たのです。 きっかけは、団地の改装でした。 壁は真新しい白と薄いグレーに仕上げられ、窓のサッシが取り替えられ 正面の階段は一段増やされました。 家にアカの他人が入ってあちこちいじくり回すわけですから いくら綺麗にするためとはいえ良い思いはしないのが人間です (そうだと思っています) なので、私は改装の間あまり家には帰らず、従妹や友人の家を泊まり歩いていました。 そして、改装が終わって 初めて自分の住んでいる団地が新しくなったのを見て、気付いたんです。 ああ、これだったんだと。 小さい頃見た奇妙な夢。 その夢の中に出てきた団地は壁が一面白と灰色で統一され そしてどことなく余所余所しい雰囲気があったのを 今まさに改装された団地を見て思い出したのです。 正夢だったのだ、と思いました。 改装され、綺麗にされて、何処か余所余所しい、けれども住み慣れている筈の団地。 その時に甦った夢の光景は、とても新鮮でした。 まるで、つい昨晩に見た夢のように。 私はまだ、その団地で暮らしています。 もうその外見にも慣れてしまいました。 毎年、空調の室外機には雀が住み着き、梅雨には紫陽花が狂い咲きます。 春には他より赤みの強い八重桜が花を付けます。 肺病で死んでしまった友人は、もう現れません。 そうやって、変化の中に身を置いて流されていってしまうのが、 近頃とても寂しく感じます。

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