病で死んだ友人が
投稿者/桐崎永久


ざっと、3年ほど前のことだったと思う。 私は早春の夜中、覚えたばかりの煙草に火を点け、ベランダに出た。 その日はちょうど満月で、周りの星は月の明るさに負けていた。ふっと。寒さを覚えた。 不意に聴覚を微かな音が襲ったからだ。 つきっぱなしのラジカセから、漏れてくる音の所為だと思った。 実際、何か雑音じみた、不明瞭な音だった。気にせず、煙草を吸い終えるまでベランダにいた。 でも、何かが可笑しかった。 私の持っているラジカセはリピート式ではなく テープでもCDでも、一周終われば自動で電源が落ちるタイプだったのだ。 午前一時を回った頃だった。 私がラジカセでCDを再生し始めたのはちょうど真夜中あたり・・・ そう、 とっくに、CDは再生を終えて停止していて良いはずの時間だったのだ。
何処か他の階の人間がつけているのだろうか? 安普請の都営住宅じゃ、それもあるかなと思ってみた。耳を澄ましても、音は下からでも上からでも、ましてや隣からでもなかった。
相変わらず不明瞭に、しかしはっきりと、私の部屋から聞こえ続けていた。気味が悪くなり、私はもう一本煙草に火を点けた。音は二本目を吸い終わる頃になっても消えていなかった。 気にしないことにし、部屋に入った。 途端、音はピタリと止んでしまったのだ。 もう一度、外に出てみると、やはり不明瞭な音が聞こえてくる。車の音でもなく。葉ずれの音でもなく。 今思い返すと、 多分、あれはその少し前に死んでしまった友人だったのではないかと思うのだ。 その時かけていたCDは、 その友人も好んで聞いていたアーティストのものだったからだ。 更に、私が煙草を始めたのは、その友人の葬式の翌日だったのだ。 心配して、諫めに来てくれたのだろうか?(その友人は胸の病でなくなったのだ) 気管支が、空気を押し出すときの雑音だったのだろうかと。 私は今も煙草を吸っている。 体に悪いのは百も承知だ。 自分の意志で死を近づけることを愚かだという人もいる。 しかし、私は病気や寿命には殺されたくないのだ。 そう開き直ったのも何時の頃からだったのだろう? ともかくも、それからはあの不思議な音は聞いていない。 結局何だったのか、確認もできないままだ。

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