く闇
投稿者/桐崎永久


不意に思い出したので自分としてはかなり恐かった体験をひとつ。 今にも雨が降りそうな、月も星も見えない真っ暗な晩でした。 いつだったかは正確に覚えていません。 おそらく、10代前半の頃だったと・・・ それは、いつもの帰り道でした。 風景などろくに覚えていませんが、確かに私は歩き慣れた道を通っていました。 時間は、真夜中。 多分、何処かへ遊びに行って、遅くなったんだと思います。 真っ暗で、街灯の光に照らされる道の端の植え込みが やけに恐ろしく思えたのを覚えています。 ふと・・何かの拍子で立ち止まったのです。 本当に、突然。 『振り向いてはいけない』 咄嗟にそう思ったものの、時既に遅し。 薄ら寒い背中。 毛穴が開くような感じがして一気に回りの温度が下がりました。 振り向いた私の目には・・・ 何も映っていませんでした。 それなのに、何故か恐怖を感じていたのです。 歩き出そうにも足は縫い止められた様に重く 地に向かって引っ張られている様な気さえしました。 とても奇妙な感覚でした。 目には恐怖の対象が何も見えていない。 それなのに、肌が、本能が恐怖を感じていたのです。 振り返った顔を、ゆっくり前へと戻しました。 公園・・・ 公園の、何か、丘の様に土を盛ってあるところだったと思います。 その向こうのフェンス。 何か、違和感。 闇が動いた様に見えました。 街灯の明かりの、届くか届かないかの、その空間に。 何かが蠢き・・・ そう、まるでそれは、私に向かって手招きをしている様でした。 じり、と後ずさり、もう一度振り返ると、そこにも、蠢く闇。 街灯がちらついて目に痛いのに、その闇はまるで、そこに澱の様に固まって・・・ そして、手招いていました。 声もなく、気配もなく。 ただ、『何かが居る』と確信させる程の、確かな存在感を以て。 駆け出そうとしました。ともかく、その場から逃れようと。 手招きする闇は、だんだんと近付いてくる様に見えました。 前から、後ろから。 『やめてくれ、来るな、来るな!』 必死に叫んだ気がします。 それでも、声は遂に声帯を振るわせることがありませんでした。 遠くなる意識の中で、首筋と足首に、何か冷たいものが触れた気がして・・・ そこから先は、良く覚えていません。 ともかく、気付いたときには、息を切らせて家の前まで来ていました。 気のせいだ、或いは何かの見間違いだろうと。 そう信じて疑いませんでした。 異変は翌日。 首筋と、足首に。 うっすらと、紅い痣が残っていたのです! 今でもそれがどの公園だったか良く思い出せません。 近所の公園には、絶対に夜中行かないようにしています。 やむを得ず通るときは、携帯など打ちながら、決して振り向かず 極力周りも見ないようにして。 それ以来は、それほど恐い思いをしていません。 ただ時々、あの冷たい感触が急に思い出されるのです。

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