GHOST TAIL

JuJu:怖い話と百物語

百物語

闇に潜む魔
2000年/投稿者:(高嶺亨)

これは盂蘭盆会真っ只中の 8月13日に体験した事です。


その日、私と友人Aは 共通の友人であるB夫婦とカラオケに行く約束をしていました。





時刻は午後10時。





B夫婦の経営するお店を閉めた後

車2台に分かれて近くのカラオケボックスの向いました。

国道沿いの角地という最高の立地条件のその建物は

元々は全階を使用したアミューズメント施設で

カラオケボックスに姿を変えた今でも

内装はほぼそのままの状態で再利用されていました。

我々4人が通されたのは、2階の少々奥まった部屋でした。

アミューズメント施設の名残でしょうか

部屋の中はまるで宇宙船内部を彷彿とさせるようなものでした。

鉄パイプが壁を這い、不自然に残された階段があり

塗りこめられたドアがひっそりと部屋の片隅に存在する・・・





あまり気持ちのよいものではありませんでしたが

折角の楽しい雰囲気を壊すのも悪いと思いそのまま席につくことにしました。

壁沿いに置かれたL字型のソファーの最奥にB夫婦 角を挟んだ手前にAと私が座りました。

ふと顔を上げると

部屋の中に残された10段足らずの不自然な階段が視界に飛び込んできました。

鉄製の階段は所々錆びその先は人1人立つのがやっとなぐらいの

小さな踊り場と塗りこめられたドア。

不快感は拭えぬままでしたが大して気にする事でもなかろうと

再び膝に置いた本に目を戻しました。

その瞬間、私は自分の目を疑いました。
























あの小さな踊り場に、黒い影が揺らめいているのです。






















眼の端、僅かな視界で捉えられたその姿は 確かにそこに存在するのです。

しかし、階段の昇降口には鎖が張られ

その前にはカラオケの機材が置かれているのです。

階段を上ろうと思えば必ず私の前を通らなければ行けません。

階段の反対方向からは楽しげに歌う友人3人の声が聞こえてきます。

階段上に存在するその姿をちゃんと見るべく私は顔を上げました。

すると、揺らめいていた黒い影が一瞬のうちに白い煙となって消えうせたのです。

隣に居たAにそのことを話すと 「お盆やからな〜」 と返されてしまいました。

確かに、お盆真っ只中。

しょうがないか・・・と思い気に留めぬように努めました。

暫くして、お手洗いに立ったAが顔色を変えて戻ってきました。

彼が話すには







「部屋の上にある空間から大きな眼が覗いていた」






そうなのです。

また、この部屋の周りだけイヤな空気が渦巻いているとも。

私の気分は増々悪くなってゆきました。

階段の上では変わらず黒い影が蠢き 視線を向けると消えてしまう。

部屋の空気も心なしか重苦しくなりました。






そして、1時間が過ぎた頃 私の背中に冷たいものが流れ落ちました。

何かに首を締められ始めたのです。

ほんの一瞬でしたが、壁から親指ほどの太さの紐が伸びて

私の首に絡まっているのが見えました。

最初は真後ろから締められていたものが段々と上に移動し

最終的にはまるで首を吊られているような感覚でした。

ふっとその感覚が消え安心していると

今度は喉仏だけを圧迫されているような感じを受けました。

紐のときとは比べ物にならないほど苦しく息も思うようにできません。

どうしようかと考えたとき部屋に終了時間を知らせるベルが鳴り響きました。

その時、痛いほどの圧迫感は消えましたが

まだ微かに押されているような感覚は残りました。






私は友人たちにこの事を話しました。

するとAも、頭の上から押さえ付けられていたというのです。

カウンターに赴いたBがその事を店員に告げました。

「ここ、幽霊出るとかそんな話はないの?」

すると、そのアルバイト店員は間髪入れずこう答えました。



























「あ、出ますよ。見ました?」

























この一言にAは鳥肌が立ったといいます。

良く目撃されるのは3階だと店員から聞きました。

しかし私たちが居たのは2階。

私が首を締め上げられたのも Aが上から押さえられていたのも

上の階の住人の悪戯だったのでしょうか。

ソファーに座った位置も何か関係があったのかもしれません。

最奥に座っていたB夫婦には、何の異変も起こらなかったそうですから・・・。






息苦しさを残したまま友人と別れ帰宅した私は鏡を見て絶句しました。

喉仏のあたりに、まるで親指のハラで押さえつけたような黒い痣が残っていたのです。

何も見なかったといっていたBも翌日原因不明の頭痛で起きられなかったそうです。

後から聞いた話なのですが例の建物と土地はしょっちゅう持ち主が変わり

長続きする商売はないんだそうです・・・・。