これは私が当時まだ幼い頃のお話です。
あれは、うちの母と激しく喧嘩した日の夜の出来事でした。
時刻は夜中の3時過ぎ。
その時私は深夜一人でお風呂に入っていました。
流石に兄弟や父親などはもう床についており、あたりはとても静かでした。
湯船につかり、母との口論を思い出し、不機嫌な気持ちを残したまま、
しばらく、ボーとしていました。
20分ぐらいたったでしょうか・・・
ふと換気用の小さな窓を見上げると
「ヒューーーヒュー」と
そこから風が入ってきていました。
しかし、窓から風が入ってくるぐらい、別にいつもの事ですので
その時は、特に気にもとめませんでした。
しかし・・
その時の風は何かいつもの風とは違って
妙に生暖かい風だったような気がしました。
春に入ったばかりのちょっとぬるい風のそれと似ていました。
しばらくして、「そろそろ出るか」と、
そう思っていたら
また風が「ヒューーーーーヒューー」と入ってきました。
その時です・・
私は確かに聞きました。
風の音に混じって、聞こえるはずのない「人間の声」が聞こえたのです。
それは女性の声でした。
「え・・・??何今の?」
そう思い、
もう一度耳をすまして風の中の「声」らしきものに、全神経を集中させました。
すると・・
「・・・ちゃ・・・ん・・・か・したら・・だめだ・・よ・ぉぉ・・」
という声が聞こえてきたのです。
それも、何度も何度も同じ言葉を繰り返しているのです。
温まっていた体が、急に強烈な寒気に襲われました。
私は、一目散にお風呂を出て寝室のある2階に行き、布団に包まって
先程の風に混ざった声をふと思い出してみました。
すると、あの声は亡くなった祖母の声に大変良く似ていた事に気が付きました。
きっと祖母は私が母を困らせてばかりいたから
母に変わって、警告をしにやって来たのではないでしょうか・・・
子を思う母の気持ちというものは、いつまでも残っているものだと感じた体験でした。